Nov. 17, 2022

国内大手キャリア全四社に聞く、XR&メタバース市場戦略:ARISE#3 - Re:ARISE「XRの現在地と未来」レポート

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XR・メタバースにおけるハードル

まずは各社の取り組みの中で感じている、課題感の共有に対しての質問から始まった。

— キャリア各社でXR・メタバース関連プロジェクトを推進する上でのハードルはどんなものでしょうか?

楽天モバイル 益子 宗(以下、益子)

楽天の事例から紹介させていただきます。
2021年11月、楽天モバイルと楽天ヴィッセル神戸は、5GとVPS技術を使った新しい観戦体験の実証実験に関してのリリースを出しました。実証実験の際、スタジアムの3Dマップを作成する必要がありましたが、その作成に難しさを感じましたね。



— 具体的にどんな難しさがありましたか。

益子

スタジアムが結構広いというのと、あとスタジアムが開閉式だったんです。スタジアムの条件によって照明の当たり方が全く変わってきます。何回も撮り直し、いろいろ条件を変更したりしました。ただ、なかなかその場所を借りての撮影も難しいこともあり、総じてこうしたデータ取得やデータベース作りは業界においてハードルになってくるのではと思っています。


— 水田さんいかがでしょうか。

KDDI 水田 修(以下、水田)

ARならではの「かざす手間」の課題をどう越えるのか、それを乗り越える欲求をどうデザインし、実質的な習慣をどう変えるのか、という点は大きなハードルになりそうだな、と思っていますね。
ARに対しての興味が無くなったり、別のことへの興味が強くなってしまったりして離れることは往々にして起きますよね。


ソフトバンク 坂口 卓也(以下、坂口)

そうですよね、やはりXRにしてもメタバースにしても、その瞬間だけ喜んでもらう体験を提供してしまっていることが、いま私たちがやってることかなと正直思っています。つまり継続して、繰り返し使ってもらえる、そういった領域にまだXR、メタバースが仕上げきれてないのかな、と。


— 継続体験を提供できているとしたら、どの領域なのでしょうか。

坂口

これをやり切れているところが、やはりゲームであったり、何かしらの目的が仕組まれているもので、その一つにARが組み込まれてるサービスだと思っています。メタバースもほとんどが、そのゲーム性の中で経済が成り立っているのかなという印象を持っています。「ゲーム」という目的があるからそこに来る、という感じですね。


NTTドコモ岩村 幹生(以下、岩村)

結局、人間のどういう本質的な欲求に応えるのかが一番重要だと感じます。たとえば、美味しいご飯が食べたい、もっと賢くなりたいといった欲求に対して、月々数百円支払ったらそのリターンがあると多分みんな使うと思います。
それがXR縛りとなった途端、こうした現実の世界で沸き起こる欲求が本当に満たせるのかが不明瞭になってしまっていると感じます。この点を本気で考える必要があるな、と。


グラス端末の未来



— ありがとうございます。次の質問として、グラス型端末の位置付け・行方はどうなっていくとお考えでしょうか。それでは続けて岩村さん、お願いいたします。

岩村

「ポストスマホ」の最有力候補として、やはり眼鏡(グラス)が上げられるのではないかと思っています。ただ、常時着用できるぐらいの眼鏡にならないと駄目だと思っていまして、認知負荷が高いと流行しません。この点、スマホは秀逸だと思っています。
まさに、パブロフの犬のように、何か報酬が与えられると判らせてから、ドーパミンが分泌されないと人間は行動を起こしません。たとえば動物実験で、ジュースが出ることを覚えさせるため、ジュースが出る2秒前に電球を光らせるようにしたとします。すると、電球が光った瞬間に実際にジュースが出たかどうかは確認せずとも、報酬があるという「サイン」になり、無意識に行動できるようになります。まさにそれがスマートフォンで起こってることで、人間にとっての「電球」がいまのスマートフォンそのものなんです。


— 「報酬」が「負荷」を上回っている、と。

岩村

テーブルに置かれているスマートフォンが目に入ることが、イコール「電球」が光ることと同義になっている感じです。電車に乗っていて、向こう側に座ってる人がおもむろにスマートフォンを操作しだしたら、電球が光ってしまって無意識に操作してしまう。報酬を手にするまでのアクションも、指紋認証や顔認証など、どんどん手間のかからない方法になっており認知負荷がものすごい減っています。
スマートフォンの場合、与えられる報酬もこの画面範囲内に限られてしまうのですが、この小さい報酬が認知負荷を上回っている、これをグラスが超えられるかどうかが常時着用の鍵になってくると思っています。


「ネイティブ」と「非ネイティブ」



— ありがとうございます。坂口さんや益子さん、いかがでしょうか。

坂口

私もグラスには非常に期待していて同じ見解です。あとは、「ネイティブ」か「ネイティブ」じゃないかの差がすごくあるのではないかと思っています。私たちはどちらかというと、XRにしてもメタバースにしても、「ネイティブ世代」じゃないんですね。いまの若い世代や、これから生まれてくる世代が「ネイティブ世代」になります。
結局、どっちがマジョリティー層になるかというと、いま「ネイティブじゃない」方がマジョリティーで、その人たちに合わせたサービスを作らないといけない、そういう状況なのかなと思っています。誰がマジョリティーなのか、市場ターゲットがどんな層なのかがすごくポイントであって、このタイミングを間違えて、先行技術に飛びついてしまうと失敗してしまいます。もしくは、早すぎたよね、みたいな話になってしまう。
自分はネイティブではないけども、今の市場に対してどういう価値を提供できるのか、数年単位の中長期的に見るとネイティブな人たちがマジョリティーになってきたときにこういう価値を提供できるだろう、といった目論見がちゃんと繋がっていかないと成立しないんだろうなというふうに思ってます。


— ネイティブ世代の考えは面白いですね。益子さんどうでしょうか。

益子

間違いなくもうAR体験するデバイスは、眼鏡型になってくるのかなと私もすごく思っています。ただ、市場に出回っているグラス端末は、やはりまだ画角が狭かったり、発色的に少し見づらかったりするところはあります。
ユーザーが「こんなものか」と感じてしまうと、マーケットの普及がちょっと遅れてしまうのかもな、と思っているところはありまして、ユーザーの飽き加減と、デバイスの普及のバランスは気にかかっていますね。


XR・メタバースの戦略的位置付け



— 次にXR・メタバースの戦略的な位置付けについてコメントいただければと思います。

水田

決算発表と同時に経営戦略の発表もあり、そこではXRが、あくまで手段であるという見方になっています。
消費者の⽅々に対して、KDDIでは明確な⾔葉の定義を作っていまして、「LX -ライフトランスフォーメーション」と呼ぶようにしています。ユーザーの体験価値を変えていくこと⾃体を事業の柱にしていくという話をしています。それを実現していくための⽅法の⼀つとしてXRやメタバースが挙げられます。XR⾃体を事業としてどう育てるのかというよりは、どうやって新しい体験価値を世の中に浸透させていくかっていう手段として活用している状態です。


— 岩村さんいかがでしょうか。XR・メタバースはどのような立ち位置なのでしょうか。

岩村

私は“脱”物質社会の観点からXRに注目しています。たとえば、新しい衣料の約60%がそのままゴミになってしまっていたり、住宅も15%弱ぐらいが空き家になっていて、このまま進むと3割ぐらいが空き家になるとも言われています。要するに衣食住が飽和しているんですね。物質社会が消耗され続けている、と。
経済合理性が追求された結果、過剰生産が進み、そこに売れ残りが発生してしまうと企業が困ってしまうので、大量に広告を出して消費させる世の中になってしまっています、その結果、何が起こってるかというと環境破壊や格差問題などです。ただ、人間の欲求は無限に近いものです。基本的には欲求が強いものが進化の過程、自然淘汰で生き残ってきてきてるわけなので。この欲求と向き合わざるを得ないといけない。しかしながら、無限の欲求を有限の物質社会で何とかやろうとすると無理があると思っています。


— 物質社会の風向きを変えるのがXRであると。

岩村

Clusterの加藤さんが仰っていましたが、過去数百年の大きな変化は「モビリティ」だと。しかしこれから何が起こるかと言えば「バーチャリティ」だと仰っているんですね。
私たちの日々の暮らしの中で、知り合いや友人と直接会ったとしても、往々にして直接手に触れたりはせず、実は視聴覚の情報だけで9割以上成り立っています。自分の目に見えること、耳に聞こえることがコンテキストとしてやりとりできれば、相当なことができてしまうのではないかと思っています。そこでXRが使われるのではないかと感じています。
もしかしたら数百年後に人類史が書かれたときに、この時期は「バーチャリティ」の文明に入ったと後世に語られるのではないかと。私はスマートフォンがそこに至るステップでしかなかったとも考えています。
XRが物質社会中心の文明を変えていく、サスティナブルな世の中に変えていくために使われていくべきではないかと考えています。


水田

確かに価値観が⼤きく変わってきていて、先ほどサステナブルの話も出ましたけど、経済的価値を⽣むことだけを目的に事業活動をすること⾃体が、世の中にフィットしなくなり始めているとも感じています。
別のエビデンスで、OMRONが発表している「SINIC理論」という未来予測が挙げられます。科学、技術、社会の3つが相互作⽤しながら、どう世の中が変わっていくのかを予測するモデルなのですが、それによると、⼤量⽣産・⼤量消費という今から300年ぐらい前から現在まで、その名残をずっと辿っているらしいのですが、ここから先20年くらいで変貌して「最適化社会」というものになるという予測もあるようです。
物質的な豊かさというところから、⼼の豊かさに注⽬が集まっていったりする価値観の変化もその⼀例であって、テクノロジーがその実現の後押しをしている部分もあると思っています。


岩村

基本的に私たちの欲求を満たすために、あらゆるモノを全部作っていく工業社会は終わりそうだな、と。資本主義が広がっていって、いろいろと物が安くなったり、物質的には豊かになったかもしれない。しかし、私たちの精神は豊かになってるかどうかよくわからない時代に差し掛かっていますよね。
たとえば、「いい服」を着る理由って、別にメタバースの中でも充足できるんじゃないのか、と問いただす時期に差し掛かっているかもしれません。その上で、結果として地球環境にとって、もっと優しい世の中にできるかもしれません。こうしたXRやメタバースを起点にした流れに注目してます。


XRの未来で大切なこと



— 最後にパネリストの皆様から、オーディエンスがXRの未来にどう仕掛けていくべきか、どういったことを意識すべき点があればコメントお願いします。

益子

XRやメタバースは、どこかイメージが先行しすぎていて、それを使ってどういうふうに自分たちが変わっていくのか、自分ごとに捉えるような体験っていうのがあんまりなかったりします。こうした機会をうまく作っていく必要性があると感じています。
たとえば、VRチャットとかたまに参加するんですけれども、どうやってこれ遊んだらいいのかよくわかんなくて、ゆるく遊んでいる間に知らない外国の人に声をかけられたり、そんな体験をいろいろ繰り返してると、本質的にこれがどういうふうに自分の未来を変えていくのか見失いがちになったりもしていて、こうした点をうまく実証実験やイベント、サービス化によって啓蒙していくのが、かなり重要なのかなというふうには思いますね。


— ありがとうございます。坂口さんいかがでしょうか。

坂口

そうですね、皆さんもお感じだと思いますが、やはり今の「メタバース」という言葉自体はバブルだと思っていて、ちょうど技術的に成熟し始めた時に資本主義経済が結構行き詰まり感が出てきて、さらにコロナによって人の動きや物の動きが停滞してしまった。結果としてお金が溢れてしまい、それがメタバースの方に流れていったっていうのが、バズワード化、バブル化させている一つの理由ではないかと思っています。
つまり過剰な期待がかかっている状態だと思いつつも、可能性も感じているというのが私の個人的な意見ですね。


— なるほど。それでは具体的にどんな形で進めていくのがベストでしょうか。

坂口

いまはXRやメタバースネイティブではない世代がマジョリティ。そこに対してイノベーションの要素を当てはめていく必要があると思っています。イノベーション要素は3つありまして、お金の節約、時間の節約、そして人生を豊かにできるのか、の3点が挙げられます。
マジョリティという数を動かすためにはイノベーションが必要。これをどうにかしてユーザーに認めてもらい、価値として感じとってもらえる必要があります。


— 岩村さんいかがでしょうか。

岩村

私は「幸福の追求」が重要になっていくと思います。私にとっての幸福の定義は結構シンプルで、「コミュニティの深さ」と、「コミュニティの数」の掛け算の総和かなと思っているんですね。つまり、どれだけ多くの人と良い信頼関係を築けているのかという点に尽きると思っています。
人が最初に集団を作ると、規範がないからコミュニケーションを始めるんですよね。コミュニケーションしてるうちに、なんとなくその場のルールみたいなものができて、規範ができていきます。このとき、中央に収まる人はいいんですが、逸脱する人が絶対に出てしまうんです。
自分がどれだけそのコミュニティの規範にマッチできるかっていうことが大事になるとき、リアルな社会では、やはりいろいろとスイッチングコストが大きいから引っ越したりもできませんし、転職もしんどい。だから物理的な社会ではコミュニティはあまり選べません。ただ、バーチャルになると別にアバターをリセットすればいいですし、アプリケーションをインストールし直せばいい。コミュニティを発見して、相互理解を深める機会が多く生み出されます。
適切なコミュニティを見つけて、規範に収まって深く入り込んでいく、その数をどれだけ多く生み出せるかが通信事業者としてやるべきことかなと感じています。というのも、「通信」とは、「信頼関係」を「通わす」ことなので。


— 最後に水田さん、いかがでしょうか。

水田

私の場合、⾃分がやりたいことをやっているうちに、世の中に結果として貢献しちゃっている、そんな動き⽅がベストかなと考えています。たとえばサステイナビリティの話題で⾔えば、サステナブルファーストみたいな形で、それだけを追い求めると世の中に浸透しないこともあると感じてます。それはなぜかと⾔えば、世の中によいことだとしても自分の生活で負荷がかかることはあまりやりたくなくて習慣化しない…ということも原因かと思っています。
だからチームメンバーには⾔ってるんですが、サステナブルは「必 然」であるのですが、「⽬的」ではないんですよね。いまXR領域で活躍している⼈は、成功するためにというよりは、何か⾯⽩いことがありそうだからやっている⼈が多い状態だと感じていて、それが健全かな、と思っています。結局、面白い体験で⾃分がやりたいことが満たされて、それが広まっるプロセス⾃体が社会を豊かにさせていく。そのように、やりたいことを正しくやりきるマインドセットがすごい⼤事だなと思っています。


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