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没入感が人を動かす|XR広告が引き起こす理解・共感・行動意図の変容
March 17, 2026

About
弊社・MESONが開発したXRプロダクト「Immersive Showroom」について、その効果を検証する被験者実験を行い、プレプリント論文を出版しました。論文は、arXivにおいて公開されています。
論文は以下のURLよりご確認ください。
https://arxiv.org/abs/2601.09048
Introduction
拡張現実 (Extended Reality: XR) は、体験者の視覚・身体感覚・空間認知を統合的に巻き込むことで、環境との関係性そのものを再構成するメディアであると位置付けられています。XR環境において、人は情報を受動的に享受するのではなく、空間内に存在し、視点を移動させながら能動的に対象を知覚します。この特性は、仮想空間内の対象に対する認知的評価や情動的反応について、従来の2D映像の視聴とは異なる形で生起される可能性があります。
本研究では、XR体験がもたらす心理的影響を、広告という応用的文脈において検討しました。態度研究における古典的三成分モデルである CABモデル (Cognitive–Affective–Behavioural framework;Rosenberg & Hovland, 1960) を理論的枠組みとして導入し、XRは広告体験にも拡張可能かを検討しています。本モデルでは、行動意図や態度は、認知的側面 (理解・信念形成) 、情動的側面 (共感・好意) 、行動的側面 (購買意欲・接近行動) から構成されるとモデル化しています。
XR広告に関する先行研究では、理解や没入感、共感の向上が報告されていますが、それらが行動的側面である購買意欲に至る心理的プロセスは十分に検証されていません。弊社・MESONでは、空間体験プラットフォーム「Immersive Showroom」を開発しましたが、その定量的な効果については、明らかではありませんでした。そこで、「Immersive Showroom」上で作成したXR体験型広告と従来的な2D動画型広告の比較実験を通じて、XR広告は2D広告と何が違うのか、どれぐらい違うのか、そしてCABモデルの"理解"と"共感"のいずれを媒介として”購買意欲”に至るのかを検討しました。
Methods
実験は、フラットパネルディスプレイによる2D動画型広告を視聴する条件 (2D条件) と、Apple Vision Proに実装された弊社XRプロダクト「Immersive Showroom」による広告を体験する条件 (XR条件) の2条件で構成しました。2D条件では55インチディスプレイ (水平視野角31.5°) を用い、XR条件では約100°の広視野角を持つXR環境で広告刺激を呈示しました。(図1)


実験刺激には、自動車および建築・不動産の2業界から3種類ずつ、計6種類の3Dモデルを使用しました。すべての刺激は約60秒で構成され、XR条件では外観呈示 (AR) と内部観察 (VR) を組み合わせたシーケンスを設計しました。2D条件では、同一シーケンスを仮想カメラでレンダリングした2D動画を用いました。
被験者は一般から募った18名 (平均年齢31.1歳、SD=7.3歳) で、全員が両条件を体験する被験者内デザインを採用しました。刺激順序はラテン方格法によりカウンタバランスをとっています。
被験者は、各広告刺激視聴後、「商品への理解が深まったか (理解)」、「商品への共感が深まったか (共感)」、「商品を購入したいと思ったか (購買意欲)」の3つの質問について、11段階尺度 (0〜10) で評価を行いました。
分析には、条件 (2D/XR) × 評価項目 (理解/共感/購買意欲) の二元配置分散分析を用いました。さらに、XR条件から2D条件を差し引いた被験者内差分スコア (Δ理解、Δ共感、Δ購買意欲) を用いた並列媒介分析を実施しました。
Results
2D条件と比較してXR条件の方がどれぐらいスコアが高かったのか、その差を算出すると、”理解”が約145%、”共感”が約146%、”購買意欲”が約140%上昇しており、全ての評価が高まったことが分かりました。(図2)

より詳細に検討するため、二元配置分散分析を実施した結果、視聴条件の主効果が有意でした (F(1,17) = 177.42、p <.001)。一方、評価項目の主効果 (F(2,34) = 0.97、p =.384) および交互作用 (F(2,34) = 0.35、p =.708) は有意ではありませんでした。下位検定を実施した結果、すべての評価項目においてXR条件が2D条件を有意に上回りました(p <.001)。
また、媒介分析では、視聴条件の差分が購買意欲に与える総効果が有意であることが示されました (B = +2.13、95% CI [1.48、2.76]、p <.001)。間接効果に着目すると、理解を媒介した経路は、B = +0.13、95% CI [−1.68、2.10]で有意な差がみられなかったのに対し、共感を媒介した経路は、B = +2.09、95% CI [0.33、3.93]で有意な差がみられ (p <.05)、購買行動には共感が媒介していることが示されました。(図3)

Discussion
本研究の結果から、XR広告体験を提供する「Immersive Showroom」は、理解と共感の双方を有意に高め、購買意欲に対しては共感の経路が強く作用していることが示されています。この非対称性は、XRというメディアが持つ、身体的・空間的アフォーダンスの特徴によって説明可能です。
XR環境では、視線移動や対象への接近といった能動的知覚が可能となり、心理的距離が縮小されます (Slater & Sanchez-Vives, 2016)。この身体化された体験は、情動的関与を強化し、CABモデルにおける情動的側面を増強させると考えられます。
一方、理解経路が有意でなかった点は、XR体験が広告手法として不向きであることを示すものではありません。本研究では、実験刺激にフリーの3Dモデルを用いていています。そのため、刺激内で呈示される商品の特定の部分に注目させるような音声ガイダンスにしないことで、ブランドバイアスや注意誘導、情報強調を意図的に抑制した設計を採用しました。その結果、認知的処理を支援するキューが不足し、理解が行動意図 (購買意欲) に接続されなかった可能性が考えられます。このことは、マルチメディア学習研究の知見 (Mayer, 2001) や、二重符号化理論 (Paivio, 1986)、視覚的・言語的キューが理解を促進すること (Jamet et al., 2008; de Koning et al., 2010) を報告している先行研究とも整合するものです。
従って、本研究の知見は、XR体験型広告が情動的訴求において強い効果を持つ一方、理解が行動意図を促すには、設計上の認知支援が不可欠であることを示唆しています。XR広告の効果を最大化するためには、共感を喚起する没入体験と、理解を促す情報設計を統合的に設計する必要があると考えられます。
References
Rosenberg, M. J., & Hovland, C. I. (1960). Cognitive, affective, and behavioral components of attitudes. In C. I. Hovland & M. J. Rosenberg (Eds.), Attitude organization and change: An analysis of consistency among attitude components (pp. 1–14). Yale University Press.
Slater, M., & Sanchez-Vives, M. V. (2016). Enhancing our lives with immersive virtual reality. Frontiers in Robotics and AI, 3, Article 74.
Mayer, R. E. (2001). Multimedia learning. Cambridge University Press.
Paivio, A. (1986). Mental representations: A dual coding approach. Oxford University Press.
Jamet, E., Gavota, M., & Quaireau, C. (2008). Attention guiding in multimedia learning. Learning and Instruction, 18(2), 135–145.
de Koning, B. B., Tabbers, H. K., Rikers, R. M. J. P., & Paas, F. (2010). Attention guidance in learning from a complex animation: Seeing is understanding? Learning and Instruction, 20(2), 111–122.
Citation
Kobayashi, Y., & Toida, K. (2026). Immersive XR That Moves People: How XR Advertising Transforms Comprehension, Empathy, and Behavioural Intention. arXiv preprint arXiv:2601.09048.
Credit
Producer
Yuki Kobayashi
Researcher
Kouichi Toida, Ph.D.