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徒歩移動中のAR体験、その最適解を探る 博報堂DYホールディングス×MESONの挑戦

February 26, 2026

徒歩移動中のAR体験、その最適解を探る 博報堂DYホールディングス×MESONの挑戦




『モーション・サイバービューイング』(以下、MCV) は、MESONと博報堂DYホールディングスによる、都市空間を徒歩移動する最中におけるAR情報提示のあり方を検証するために実施された実証実験プロジェクトです。

ARグラスが日常的に使われるようになった未来において、都市での「徒歩移動中」は新たな情報接触の時間になり得ます。一方で、その時間は本来、周囲への注意や安全性が強く求められる状況でもあります。だからこそ、生活者の視界や行動を阻害することなく、不快感や過剰さを感じさせない情報接触の体験を考える必要があります。
MCVでは、徒歩移動中の視覚的情報提示体験を「モーション・サイバービューイング」と定義し、ARナビゲーションとARコンテンツが、生活者の能動的な情報接触行動にどのような影響を与えるのかを仮説として設定し、観光中の徒歩移動にテーマを設定した上で検証を行いました。

本インタビューでは、プロジェクトに関わったメンバーが集い、MCVの設計意図や実装の工夫、得られた知見を振り返りながら、都市における移動体験と情報接触の未来について語ります。

(画面左から)MESONプランナー・清水、MESONディレクター・山本、MESONデザイナー・東田、博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター(MTC)・平沼英翔氏


■「誘導されながらも能動的」、かつ「違和感のない」体験をつくるために


——今日はどうぞよろしくお願いいたします。まずは読者の皆様向けに、簡単な自己紹介をいただけますでしょうか。


平沼氏:本日はよろしくお願いいたします。私は大学/大学院でVRに関する研究を行い、卒業後2018年に博報堂のマーケティングの部門に入社しました。その後2021年より博報堂DYホールディングスの研究組織にてメタバース/XRの研究、特にプロトタイプ開発や次世代生活者調査を進めています。私自身は2022年頃からMESONさんといくつかの共同研究に関わらせて頂いており、2024年より今回のテーマであるモーション・サイバービューイング(徒歩移動中のAR体験)を新規共同研究としてスタートさせていただきました。



——徒歩移動中のAR体験を考えるうえで、みなさんが一番大事にしていたことを教えてください。


平沼氏:今回一番意識していたのは、「誘導状態」にある人に対して、どうやって能動性を引き出すか、という点でした。

目的を持って移動しているときって、基本的には周囲の情報を遮断しているじゃないですか。その状態でも「ちょっと気になるな」と思わせて、視線や行動がふっと逸れる。そのきっかけをARでどう作れるか、というのはかなり重要なテーマだったと思っています。

特に、誘導と能動的な情報接触はある意味では相反する概念なので、そこを両立させる検証自体が、既存研究でもあまりされていない。だからこそ今回は「カーム・テクノロジー」という考え方を一つの軸にして、表現だけでなく体験設計まで含めて考えられたのは大きかったですね。

研究として正確であることと、将来IPやコンテンツと組んでビジネス的に展開されるフェーズにちゃんとつながること。その両方を満たす土台を作りたい、という意識はずっと持っていました。

※カーム・テクノロジー:ユーザーの注意を不必要に引かない、人々の生活に溶け込む技術の総称

清水: 僕が一番大事にしていたのは「実際の景観に馴染ませる」という点ですね。

街の中でのAR表現って考え始めると本当に無限に選択肢があるんですが、実装を成立させるためにはどこかでちゃんと制約を置く必要がある。

今回は「街の景観に馴染ませる」という前提を置くことで、デザインの方向性はかなり絞られるだろう、という感覚がありました。しかも、「カーム・テクノロジー」の考え方とも相性がいい。

実際にやってみると、「景観に馴染ませるためには、こういう表現が良さそうだ」という方向性が割と明確に見えてきて、そこは今回の研究の中でもいいものが示せたかなと思います。

東田: デザイナーとしては、ARコンテンツが実際の都市の中に存在していても違和感がないようにデザインを進めていきました。すでに現実にある看板の色やトーンを分析して、それをARナビゲーションやコンテンツに反映しています。

アバターやオブジェクトについても、「ここにあっても不自然じゃないか」を基準に、かなり多くのバリエーションを検討しました。


山本: 扱うAR表示を「ナビゲーション」と「コンテンツ」に分けて整理しましたが、そのフレーミングは結構大きかったと思っていて。
Googleマップを見ても、ルートとナビと情報は分かれている。「AR時代でもその分解は重要だよね」という話が自然にできたのは大きかったと思います。

平沼氏: 最初は、ナビゲーション単体の検証だったんですよね。「誘導状態にある人に、どうやって能動的にARコンテンツに触れてもらうか」という仮説が先にあって。
その中で、「ナビゲーション自体が能動性を引き出す場合もあるし、コンテンツそのものが能動性を生む場合もある」という整理を一緒にしましたね。


■実験室ではなく、都市空間でやり切るという選択


——今回の実証実験を成立させる上で、難しさを感じたことはありましたか?


山本: Apple Vision Pro(以下、Vision Pro)をかけた状態で街歩き体験を成立させるのは非常にチャレンジングでした。
将来的にはARグラスが普及する前提で考えつつ、現時点で一番リッチな体験が作れるデバイスとしてVision Proを選びましたが、体験として成立させるにはかなり工夫が必要でした。

清水: ただ、Vision Proを選んだのは、結果的にすごく良かったですよね。

山本: そうですね!国内でもロケーションベースのAR体験はありますが、Vision Proを使った事例はほとんどない。
位置合わせやマーカーの工夫など、テクニカルな部分も含めて難易度は高かったですが、やるべきことをやれた感覚はありますね。

平沼氏: 屋内の実験空間を用意して、「ここを歩いてください」というやり方もあります。でもそれだと実際の生活の様子とはかけ離れてしまいますし、結果として社会実装やビジネス展開に応用しにくくなってしまう可能性がある。

その点、今回は早い段階から実際の都市空間での検証ができた。難易度は高かったですが、おかげで都市空間におけるARグラスの活用がイメージしやすく、応用しやすい研究になったと思います。

清水: そうですね。実装難易度が高い分、やること、やらないこと、やる時のルールをそれぞれ決めて、無事に作り切れて良かったと思っています。最終的に、体験としても良いものが作れたなと。

平沼氏: 博報堂DYホールディングス側(研究者)としては、やることを絞るにしても「なぜそこに絞ったのか」を説明できるだけの網羅性が求められます。
ここについては、発散の部分をMESONの皆さんが支えてくれたことで、網羅性を担保しつつ、最後に納得感を持って収束できました。最初の頃は、かなりの時間をブレインストーミングに使いましたね(笑)。

東田: そうですね(笑)。
後半に入ってからも、「広告表現の幅ってどこまで許されるんだろう」という議論は何度もしていて。最終的に6種類に収束しましたが、その過程はデザイナー観点でも良かったなと感じています。


■博報堂DYホールディングスとMESON、それぞれが見る世界


——MCVというテーマを考える中で、「見ているものが違うな」と感じた瞬間はありましたか?


平沼氏:やはりMESONさんは体験設計のプロだなと感じました。
博報堂DYホールディングスチームのみで論文化を意識した実験を行うと、どうしてもサンプル設計に偏ってしまいます。でもそれだけだと、いい体験にはならない。

今回は研究としての厳密さと体験としての面白さを両立させるため、研究設計を博報堂DYホールディングスが担当し、体験設計の部分はMESONさんにかなり委ねていました。結果的に、その並行関係がうまくいったと思っています。

山本: 体験を作る中で、コンテンツの表示量についても検討すべきではないか、というフィードバックがあったのは「なるほどな」と思いましたね。

想定される未来の中には、街中にARコンテンツが溢れる「HYPER-REALITY(※2)」的な世界観もある。
研究観点であらゆる可能性を検討するという姿勢を感じましたし、それに応えるべきだと感じました。

※HYPER-REALITY:Keiichi Matsuda氏作成の映像作品。


清水: 最初から見ているものが違うのは分かっていたので、いかに博報堂DYホールディングスのみなさんの視点に立てるか、その上でどう設計するかという話をずっとしていましたね。

平沼氏:チャットもかなり活発でしたよね。細かいことでもなんでも聞いても大丈夫だと言う安心感があって、かなり進めやすかったです。


■未来のAR体験で「超えてはいけない線」とは


——今回の研究を通して、「ここを超えてはいけないな」と感じたAR表現はありましたか?


山本: 一番わかりやすいのは安全面ですね。足元に干渉する表現や、歩行を妨げる可能性がある演出は、明確に避けるべきだと考えていました。
実際に歩いてもらう体験だったので、「面白いかどうか」以前に、事故が起きないことが最優先でした。


清水: 似たような理由で、急に視界に割り込んでくる表現もかなり慎重になりました。
視線を強く奪う演出は一時的なインパクトは出せますが、徒歩移動中の体験としては危険ですし、都市空間との相性も良くない。

ルート設計の段階から、アップダウンの少ない道を選ぶ、細い道を避けるといった配慮も含めて、体験全体で線を引いていました。

山本: あと、これは安全性というより「忌避感」に関する点なんですが…。

以前MCVについて大学の講義でお話しした際に、聴講者に「こうしたAR技術が普及した未来にワクワクするか?」というアンケートを行ったんですよ。
70%の方は「ワクワクする」というポジティブな感想だった一方、他の30%の方は少し不安感があるという回答だったんです。現実感の喪失や技術への過度な依存が主な忌避要因となっていて、「ARで超えてはいけない線」というのはその境界線という捉え方もあるなと。

平沼氏:ARコンテンツが都市に与える影響は大きいですからね。

それこそ、先ほど話した『HYPER-REALITY』もそうでしたが、技術的には現実のビルの上に、好き勝手にAR広告を重ねることができてしまう。でも、そのビルはデベロッパーが様々な点に考慮して現実に建てているもので、彼ら自身のブランディングにも深く関わっています。

今回のMCVプロジェクトでは、こうしたデベロッパーの観点に立って、「この表現は許容されるか?」を考えていました

山本: 確かに、情報の見せ方はかなり気を遣いましたよね。

検証を進める中で、コンテンツの数よりも「注意を強制的に逸らされる」体験の方がノイズになりやすいということがわかりました。
なので、今回はARコンテンツに近づいてタップしないと詳細が表示されない設計にして、ユーザーの能動性を尊重しましたね。

平沼氏: ARグラスが普及し始めたら、視界にプッシュ通知が来まくるという未来もあり得ます。
ただ、最終的には、自分からインタラクションした情報の方がコンバージョンが高くなるんじゃないかと。

こうした予想のもと、一足先に生活者の邪魔をしないAR広告の表現のあり方に取り組めたのは良かったです。


東田: アバターも、直接的に話しかけてこない形で作りました。タップするまでは、吹き出しの中に「このオブジェは…」としか表示されない、みたいな。

あくまで、その場にいる一人の通行人として存在させる。話しかけられる存在ではあるけれど、無理に話しかけてくるわけではない。ゲームの世界で、情報を持っているNPCキャラクターのような存在を目指しました。

清水: 全体を通して、「世界観」を作っていましたよね。

「観光」と「カーム・テクノロジー」というテーマのもと、現実空間を活かしながらも人の邪魔はしない「世界観」を重ねていく。ARだからこそできた体験デザインだと思います。





■「想定よりはるかに良いものができた」——平沼氏が振り返るMESONとの共同PJ


——ここからは、平沼さんに個別インタビューをさせてください。早速ですが、今回MCVプロジェクトの中で感じた難しさや面白さについてお伺いしてもよろしいでしょうか。


平沼氏: 難しさでいうと、「体験作り」と「研究」を両立させるのはやはり難しかったですね。

面白かったのは、屋外だけでなく屋内でも利用できる汎用的なARコンテンツ提示の基礎とも呼べそうなものを作れた点、そして実験での仮説がいい意味で裏切られた点ですかね。

今回の実験を開始するまで、ARコンテンツは「生活者が店舗や商品を認知するきっかけ」になるが、購買にはまた別のアプローチが必要だろうという仮説を持っていました。
ところがいざ実験を開始してみると、ARコンテンツに触れた人がコンテンツ内の文章をしっかり読んでくれて、「実際に店舗に行きたい」「商品を購入してみたい」とお話ししてくれたんです。これは既存の広告よりも一歩進んでおり、想像以上に生活者の態度変容を促す可能性があると感じました。


——しっかりと購買層にも響く体験になっていたんですね。今回の実験において、博報堂DYホールディングス様はMESONにどういった役割を期待していましたか?


平沼氏: プロジェクト推進全般に加え、研究領域についても構想から大きくアップデートしてくれることを期待していました。結果として、想定よりもはるかにいいものができたなと思っています。

頭が固まってしまいそうな研究領域の方向性だけでなく、クリエイティブな方向性もたくさん提案してくださったので、結果的に研究自体がブラッシュアップされたなと感じています。
「カーム・テクノロジーを使った広告表現」をどう実装していくのか悩んだ部分もあったのですが、「未来の生活者ってこういう行動思想だよね」とか、「お気に入り登録して後で見返すよね」といった、未来生活者のストーリーを提案し、実際に実装までしてくれたのは非常にありがたかったなと思います。


——実装を進めていく中で、特に印象に残った出来事などはありますか?


平沼氏: 実際に実装を担当するエンジニア、デザイナーが打ち合わせに出てきて、私たちの言葉を直接聞いてくれたのは印象的でした。

伝言ゲームが発生すると、どうしても小さな認識の齟齬が生まれ、実際のアウトプットになった時に「しっくりこない」に繋がってしまいかねない。個人的には、その積み重ねがプロジェクトの破綻を生むと思っています。

また、MESONさんは打ち合わせの度にプロトタイプを見せてくれたのですが、それも嬉しかったです。
「次のフェーズではここまで作って欲しい」という話をすると、次の打ち合わせは会議室でなく、現地でのプロトタイプ体験から始まる。その体験をベースに「どこをどう作り込んでいくか」の議論ができたので、非常に安心して進められました。こちらのオーダーにも素早く対応していただいて、そのスピード感もありがたかったです。


——それはよかったです!博報堂DYホールディングス様のように、生活者の未来を考える企業は多いと思いますが、そんなみなさんにMESONをパートナーとして勧めるとしたら、どういった点でおすすめできると思いますか?


平沼氏: まずは、スタッフの皆様がフラットにディスカッションができる関係性を作ってくださる点ですかね。

あと、MESONさんはクリエイティブカンパニーということもあって、常に最先端の思想や知識を持っているところは他社の皆様にも強くおすすめできる点です。
ARやXR、メタバースの体験作りに関しては、実際に当事者やユーザーであることがとても重要だと思っているのですが、今回もARナビゲーションの未来を話す上で最新ゲームのUI/UXがリファレンスとして挙げられていました。

MESONさんは技術力もありながら、最先端のサービスや体験設計の考え方をお持ちで、未来の体験作りという点でとても話が進めやすかったです。色んな方向性のアイデアを出していただけるのは、MESONさんのすごいところだと思います。


——ありがとうございます。今回行ったMCVの取り組みは、今後社会にどのような変化をもたらすと考えていますか?


平沼氏: 今回、AR広告に「お気に入りボタン」を入れてみたんです。屋外広告へのフィードバックが簡単に行える未来の可能性も面白いなあと思って。


SNSだと流れてきた広告に対して簡単にフィードバックを送ることができますが、徒歩移動中に屋外広告を評価することはなかなかない。もし「嫌だな」と思う広告に出会っても、わざわざ写真を撮ってSNSに投稿するという人は少ないですよね。でも、AR広告が当たり前になった未来では、生活者が屋外広告に対して簡単にフィードバックを行える。生活者が広告の良し悪しを判断して、都市の景観をデベロッパーさんと作っていくという未来もあり得るのではないでしょうか。


——最後に、今後MESONとやってみたい取り組みなどがあったら教えてください。


平沼氏: ゆくゆくは、多くの方に汎用的に使っていただけるようなサービスを作って発展させていく…ということができればいいなと思っています。
今回のMCVもそうですが、MESONさんは一般の目に触れない共同研究目的のコンテンツでも、サービス化一歩手前くらいのクオリティの体験を作り上げてくれる印象なので。今回得た知見も生かしつつ、今後は実際にユーザーに展開し、それを発展させるところまで一緒にできたら理想ですね。


——ぜひご一緒させていただけたらと思います!本日は貴重なお話をありがとうございました!



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