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「その場にいる感覚」が心理的近接性を高める ~Immersive Videoの撮影距離が演者との心理的近接性を変える

July 14, 2026

「その場にいる感覚」が心理的近接性を高める ~Immersive Videoの撮影距離が演者との心理的近接性を変える

About

弊社・MESONと株式会社博報堂DYホールディングス (以下、博報堂DYホールディングス) は、180°立体視のImmersive Video (以下、イマーシブビデオ) を用い、演者からカメラまでの撮影距離の条件差に伴うPresence (その場にいる感覚) 関連指標の違いと、演者との心理的近接性の変化との関係を検証しました

その結果、近距離から撮影した条件 (高Presence条件) では、遠距離から撮影した条件 (低Presence条件) と比べ、実験参加者が「映像内の場所にいる」と感じる感覚や、演者との空間的・社会的な近さが高まりました。

本研究は、イマーシブビデオにおいて、演者からカメラまでの距離を主たる操作とし、収音位置も連動させた近距離・遠距離条件を比較した結果、体験者が映像空間内のどこに自らが位置していると感じるかに関わるPresence関連指標と、演者を自己にどの程度近い存在として位置付けるかという心理的近接性の変化に差が生じる可能性を示しています。

研究の結果はプレプリント論文としてarXivにおいて公開されています。

論文は以下のURLよりご確認ください。

https://arxiv.org/abs/2606.08912




Introduction

ライブ、スポーツ、舞台芸術などの現地体験は、強い臨場感や情動的な高まりをもたらします。一方で、現地へ足を運ぶには、時間、移動、費用などの負担があります。

イマーシブビデオは、180°立体視映像と空間音響を、ヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)で体験する映像形式です。視聴者は、画面を通じて単に平面映像として見るのではなく、映像内の空間に自分がいるかのような、身体的・空間的な主観的体験を得ることがあります。このことから、イマーシブビデオは、従来の2D平面映像の鑑賞体験と、現地体験の中間的なメディアとしての可能性を秘めています。

XR研究では、視野角、立体視、頭部追従など、システムが提供する技術的条件としてのImmersion (没入性)と、そうした条件のもとで体験者が「自分はその場にいる」と感じる主観的・心理的状態としてのPresenceは、区別して捉えられています(Slater, 2009)。本研究では、このPresenceに着目しました。イマーシブビデオでは、カメラの位置が、視聴体験者自身が映像内で位置していると感じる場所になり得ます。したがって、撮影距離は、演者を大きく見せるためだけの構図上の選択ではなく、視聴体験者がコンテンツ内の演者からどの程度離れた位置にいると感じるかを設計する変数だと考えられます。

人と人との距離には、親密さ、社会的関与、不快感などの心理的な意味が伴うことが知られています。この考え方は、近接学 (Proxemics) と呼ばれる分野で研究されました (Hall, 1966)。先行研究では、VR空間における人物やアバターとの距離が、Presenceや心理的な距離感に影響することが示されています (Bailenson et al., 2003; Probst et al., 2021)。

本研究では、これらの先行研究を踏まえ、イマーシブビデオにおける撮影距離を操作し、その違いによって生じるPresenceの差が、演者との心理的近接性にどのように関わるかを検証しました。


Methods

実験刺激には、日本のアイドルグループによる約3分17秒のライブパフォーマンスを、イマーシブビデオとして新たに撮影した映像を用いました。

演者、楽曲、振付、会場および表示デバイスを共通とし、撮影カメラおよび収音マイクの位置を変えた二つの条件を制作しました。高Presence条件では、センターポジションの演者位置からカメラまでの距離を1,200 mmに設定し、低Presence条件では7,600 mmに設定しました。(図1)

1,200 mmは、近接学における個体距離 (Personal distance) の外縁に、7,600 mmは公衆距離 (Public distance) の外縁に相当します。両条件とも、一曲を通したワンカット映像として制作し、編集や演出による条件差を極力抑えました。

図1:撮影距離条件の違い



実験参加者は24名とし、対象コンテンツのファンクラブ会員を高関与層 (コアファン)、非会員を低関与層 (ライトファン) として、それぞれ12名が参加しました。すべての実験参加者が高Presence条件および低Presence条件の両方を体験する、実験参加者内計画を採用しました。

実験参加者は、実験内容の説明および同意取得後、事前アンケートに回答しました。事前アンケートでは、コンテンツ内の演者との心理的な近さを測定するIOS尺度 (Inclusion of Other in the Self scale) と、演者に対する現在の印象を評価する項目に回答しました。

IOS尺度は、自分と相手の関係を二つの円の重なりとして回答することで、相手が自己にどの程度近い存在として位置づけられているかを測定する尺度です (Aron et al., 1992)。本研究では、実験参加者自身を表す円と、コンテンツ内の演者 (アイドル) を表す円の重なりを、0から10までの11段階で評価しました。以下、この円の重なり具合を、「心理的近接性」と定義します。(図2)

図2:Inclusion of Other in the Self(IOS)尺度



また、撮影距離条件の違いによってPresenceを構成するどの要素が心理的に変化したかを確認するため、行為可能性 (Possible Actions) やエンゲージメント (Engagement) といった、Presenceの下位因子である複数の指標を測定しました (Lombard, Weinstein & Ditton, 2011)。

実験参加者は、続いてApple Vision Proを装着して高Presence条件または低Presence条件のいずれか一方の映像を体験しました。映像体験後、Apple Vision Proを外し、直前に体験した映像に対するIOS尺度およびPresence関連指標に回答しました。その後、もう一方の条件の映像を体験し、同様の評価を行いました。映像の体験順序は、各関与層内でカウンターバランスを取りました。

また、事前および各条件の映像体験後には、SD法 (Osgood, 1957) を用いて、コンテンツ内の演者に対する印象評価を取得しました。「近い — 遠い」「親近感がある — 親近感がない」「ドキドキする — ドキドキしない」など14個の形容詞対について7段階で評価し、映像体験の前後および条件間で印象の構造がどのように変化するかを、因子分析を用いて探索的に検討しました。


Results & Discussion

はじめに、映像条件を体験した順序が回答結果に影響していたかを線形混合モデルを用いて検討しました。その結果、条件の体験順序による有意な影響は確認されませんでした。したがって、以降の分析では、高Presence条件と低Presence条件の違いを、撮影距離によって生じた条件差として扱いました。

高Presence条件は、演者との空間的・社会的な近さを強く生じさせた

高Presence条件と低Presence条件を比較した結果、高Presence条件では、「映像空間を自分がいる場所として感じる感覚」であるSpatial Presenceが有意に高いこと (t(23) = 2.87、p < .01)、「自分が映像内の撮影地点にいると感じる感覚」であるSelf-Locationも有意に高いこと (t(23) = 3.28、p < .01) が示されました。(図3)

Presenceの下位指標については、社会的Presence (例「演者とのアイコンタクトを取りたいと感じましたか?」)、行為可能性 (例「演者に手を伸ばせば触れられそうだと感じましたか」)、観察可能性 (例「演者の表情を観察できましたか?」) などの、5つPresence下位指標すべてで、高Presence条件が低Presence条件を有意に上回りました。特に大きな差が確認されたのは、行為可能性 (t(23) = 10.47、p < .001)、社会的Presence (t(23) = 6.19、p < .001)、観察可能性 (t(23) = 5.68、p < .001) でした。

これらの結果は、近距離から撮影した高Presence条件の映像が、演者を大きく見せるだけではなく、体験者にとっての演者との空間的・社会的な近さを変容させたことを示しています。

一方、「映像世界が現実として支配的に感じられた感覚」を幅広く評価するSlater–Usoh–Steed questionnaire (SUS; Slater et al., 1994) では、有意な差は確認されませんでした (t(23) = 1.77、p = .091)。このことは、高Presence条件がPresenceを高めなかったことを意味するものではありません。撮影距離の違いは、映像世界全体に没入した感覚よりも、視聴体験者自身がどこに位置し、演者とどのような関係にあると感じたかという側面に、より強く現れた可能性があります。

図3:高Presence条件と低Presence条件における中核的Presence指標の比較


また、これらのPresence評価について、事前関与の程度による有意な差や、事前関与とPresence条件の交互作用は確認されませんでした。撮影距離によるPresenceの増強は、高関与層と低関与層の双方で同様に生じていたと考えられます。

高Presence条件は、演者との心理的な近さがより大きく上昇した

体験前のベースライン時点の心理的近接性は、高関与層の方が低関与層よりも高い状態にありました。これは、ライトファンかコアファンかという事前の関与度を反映した自然な結果と考えられます。(図4左)

そこで、各映像を体験した後のIOS尺度のスコアから、体験前のスコアを差し引き、体験によって心理的近接性がどの程度上昇したかを分析しました。(図4右)

その結果、心理的近接性の上昇量は、低Presence条件よりも高Presence条件で有意に大きくなりました (F(1, 22) = 24.66、p < .001、ηp² = .529)。一方で、事前関与の程度による主効果や、事前関与とPresence条件の交互作用は有意ではありませんでした。

図4:高関与層と低関与層におけるIOS尺度のスコアの変化


つまり、もともとの心理的近接性は高関与層の方が高かったものの、事前関与による主効果およびPresence条件との交互作用は確認されず、映像体験後の心理的近接性の上昇量は、高Presence条件でより大きい結果となりました。

なお、低関与層が高Presence条件を体験した後の心理的近接性は、高関与層の体験前の心理的近接性に数値上近い水準を示しました(図中点線)。これは、高Presenceなイマーシブビデオ体験が、低関与層における演者との心理的近接性を高める条件となり得る可能性を示唆しています。

「近い」という感覚と、情動的な高まりが結び付いた

さらに、SD法による印象評価について、体験前、高Presence条件体験後および低Presence条件体験後に、それぞれ探索的因子分析を行いました。因子数は固有値1以上を目安とし、因子負荷量は0.4以上の項目を採用しました。

体験前には、「応援したい」「成功してほしい」などに関わる因子、「近い」「親近感がある」などに関わる因子、「明るい」「楽しい」などに関わる因子の三つが抽出されました。(図5左)

一方、高Presence条件体験後には、「近い」「親近感がある」といった心理的な近さに関わる項目と、「ドキドキする」「ワクワクする」「温かい」といった情動的な高まりに関わる項目が、同じ因子に含まれました。(図5右)

なお、低Presence条件体験後には、1因子構造しか得られませんでした。

この結果は、高Presence条件の体験後には、演者を近くに感じることが、単なる距離の判断としてではなく、「ドキドキする」「ワクワクする」「温かい」といった情動的な高まりを伴う関係性の評価として経験されていた可能性を示唆しています。

図5:体験前と高Presence視聴後の因子分析の結果


今回の探索的な結果から得られた示唆を元に、今後は、より多様なコンテンツや体験者条件を対象に、この関係がどのような条件で強まるのかを検証していくことが期待されます。


General Discussion

本研究が示した最も重要な点は、高Presenceなイマーシブビデオ体験が、コンテンツ内の演者との心理的な距離を近づける可能性を示したことです。

近距離から撮影した高Presence条件では、実験参加者は、映像内の場所に自分がいる感覚をより強く持ち、演者をより観察しやすく、より社会的に関わり得る存在として感じていました。加えて、演者を自分と近い存在と位置付ける度合いも、低Presence条件と比べてより大きく上昇しました。

このことは、イマーシブビデオにおけるPresenceの設計が、映像をより臨場感のあるものとして提示するためだけのものではないことを示しています。撮影距離を中心とした体験設計は、視聴体験者をコンテンツの外側にいる観客として配置するのではなく、コンテンツ内の演者の近くに位置付け、演者との関係をより身近なものとして感じさせる手段になり得ます。

従来の平面映像では、近距離のショットは、演者を画面内で大きく見せるための演出として機能します。一方、HMDで体験するイマーシブビデオでは、カメラの位置が、視聴体験者自身が映像内で位置していると感じる場所になり得ます。そのため撮影距離は、視野に入る演者の大きさだけでなく、演者との疑似的な対人距離、演者と視線が合うような感覚などの重要な体験設計上の変数となります。

本研究で確認された高Presence体験の効果は、ライブ映像に限らず、人物との関係性が体験価値に関わるさまざまなコンテンツへの応用可能性を示しています。たとえば、アーティストや俳優、スポーツ選手、ダンサー、伝統芸能の担い手、職人、ブランドのつくり手などを対象とするコンテンツにおいて、視聴体験者が対象をどのような距離で体験するかは、理解や鑑賞だけでなく、その対象をどれだけ身近な存在として感じるかにも関わる可能性があります。

今後は、演者の人数や動き、視点の高さ、視線演出、音響設計、コンテンツジャンルなどを組み合わせながら、どのようなPresence設計が、どのような心理的な近さや情動的な体験につながるのかを検証していくことが期待されます。Immersive Videoは、遠隔地からコンテンツにアクセスするための映像形式にとどまらず、視聴体験者とコンテンツ内の演者との心理的な距離を設計するメディアとして発展していく可能性があります。


References

Aron, A., Aron, E. N., & Smollan, D. (1992). Inclusion of Other in the Self Scale and the structure of interpersonal closeness. Journal of Personality and Social Psychology, 63(4), 596–612.

Bailenson, J. N., Blascovich, J., Beall, A. C., & Loomis, J. M. (2003). Interpersonal Distance in Immersive Virtual Environments. Personality and Social Psychology Bulletin, 29(7), 819–833. 

Hall, E. T. (1966). The hidden dimension. Doubleday.

Lombard, M., Weinstein, L., & Ditton, T. B. (2011). Measuring Telepresence: The Validity of the Temple Presence Inventory (TPI) in a Gaming Context. Presented at the 2011 annual conference of the International Society for Presence Research (ISPR), Edinburgh, Scotland.

Probst, P. C., Rothe, S., & Hussmann, H. (2021). Camera Distances and Shot Sizes in Cinematic Virtual Reality. Proceedings of the ACM International Conference on Interactive Media Experiences, 178–186.

Osgood, C. E., Suci, G. J., & Tannenbaum, P. H. (1957). The measurement of meaning. University of Illinois Press.

Slater, M., Usoh, M., & Steed, A. (1994). Depth of Presence in Virtual Environments. Presence: Teleoperators and Virtual Environments, 3(2), 130–144.

Slater, M. (2009). Place Illusion and Plausibility Can Lead to Realistic Behaviour in Immersive Virtual Environments. Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences, 364(1535), 3549–3557.



Citation

Toida, K., Hiranuma, H., Miura, S., Yamamoto, N., Kobayashi, Y., & Meguro, S. (2026). Enhancing presence, deepening fan intensity: How presence in immersive video shapes psychological closeness to performers. arXiv preprint, arXiv:2606.08912.


Credit

MESON, Inc.

  • Koichi Toida
  • Norihiro Yamamoto
  • Yuki Kobayashi

Hakuhodo DY Holdings Inc., Marketing Technology Center

  • Hideto Hiranuma
  • Shimpei Miura
  • Shingo Meguro


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