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Apple Vision Pro向けにどのようなアプリケーションをつくるべきか? 天気を体感できるアプリ「SunnyTune」のコンセプト

March 30, 2024

Apple Vision Pro向けにどのようなアプリケーションをつくるべきか? 天気を体感できるアプリ「SunnyTune」のコンセプト

天気を五感で感じるアプリケーション「SunnyTune」のコンセプト

――「SunnyTune」はどのようなアプリですか。

小林:SunnyTuneは、小さな空間(オブジェクト)に立体的に天気を表現するアプリケーションです。Vision Proを装着しているとき、インテリアのように常に空間の中に設置しておいて、目を向けるだけで視覚・聴覚といった五感で天気を体感できます。

スマートフォンやPCにおける、これまでの天気アプリは、読んで理解するための文字や記号によって天気を伝えていました。SunnyTuneを使用すると、風の向きや速さによって揺れる草木の様子や、雨量に応じて変わる立体的な音響をふとした瞬間に自然と感じ取ることができます。データは現実世界と連動しており、さまざまな場所のリアルタイムの天気の変化を表しています。
 
――「SunnyTune」が誕生した背景を教えてください。

小林:Apple Vision Pro向けに、日常生活で実際に使える実用的なアプリを提供したかったんです。

Apple Vision Proのような空間コンピュータの登場により、私たちとデジタル情報の関係には大きく3つの変化が生まれると考えています。

まず第一に、デジタル情報は単なる文字や記号から、視覚や聴覚で直接感じるものへと進化していきます。

第二に、デジタル情報がつねに生活空間の中に存在するようになり、デジタル情報の方から私たちに働きかけてくるようになることで、デジタル情報をこれまで以上に受動的に受け取るようになります。

そして第三に、デジタル情報はすべて奥行きを持つようになり、まるで実際に質量を持つ物体が存在するかのように感じられるようになります。

これらの変化を通じて、アプリケーションは私たちの生活空間に溶け込む「インテリア」のような存在になっていくと考えました。スマートフォンのように、ユーザーが特定の動機でアプリケーションを都度起動する必要はなくなります。まるでインテリアのように、生活空間に自然に溶け込ませておくことで、ふと目を向ければすぐに情報を感じ取れるようになるような世界です。

その入り口として「SunnyTune」をリリースしました。これから当たり前となる空間コンピュータを使った生活を、ユーザーにきちんと伝えるために、日常生活で多くの接点がある天気というテーマが最適だという結論に至りました。
 
遠藤:MESONは、次の時代のコンピューティングと人類の関係性を再構築したい。そのときに僕らが提案するアプリケーションは、エンターテイメントやゲーム、リラクゼーションといったものではなく、完全に生活の中で実際に使うものであるべきだという、こだわりがありました。その実用物の中でも、天気が最も扱いやすいと考えて採用しました。

天気をテーマに、デジタル情報と人類の新しい関係性をデザインするとどうなるか。これを考えた結果、インテリアとして常に同じ空間にある状態が理想的だと思いました。
 
――MESONはこれまでも、人々の生活をより良く変えたり、社会課題を解決したりするためのプロダクト作りや実証実験に注力されてきましたよね。まさにその軸から生まれたプロダクトだと感じますがどうでしょうか。

小林:僕らがApple Vision Proに着目してる理由はそこです。今までのヘッドマウントディスプレイはゲーム機の範疇を超えなかったのですが、Apple Vision Proはゲーム機ではありません。スマートフォンのように、日常生活で使って便利なデバイスだと捉えています。僕らも、日常で当たり前に使えるアプリケーションを作るべきだと考えてSunnyTuneに至りました。

SunnyTuneは、便利なだけでなく、自然の音を聴いて心地良くなるといった、情緒的なメリットも提供できます。そういう意味でもユーザーの生活をよくするのではと考えました。ただ、これについてはチームの中で議論がありました。天気を知るための実利のアプリケーションなのか、リラクゼーションアプリなのか、最初は揺れていたんです。
 
遠藤:結構議論しましたね。最終的には、リラクゼーションアプリではなく、あくまで天気アプリなんだとみんなで決めて作りました。インテリアを選ぶときに、機能ではなく見た目や直感で選ぶのと同じように、身近に「置いておきたくなる」手段として、音や色の表現にもこだわって作ったわけです。

アプリケーション開発で見えてきた、Apple Vision Proの特徴は?

――Apple Vision Pro向けのアプリケーションを開発するにあたって、難しかった点はありますか。

遠藤:Apple Vision Proのアプリケーションは二つのモードを提供します。「イマーシブモード」では、スマートフォンアプリの使用時のように、周囲のすべてを隠して一つのアプリに完全に没入できます。一方、「ウィンドウモード」では、パソコン使用時と同様に、複数のアプリケーションを同時に表示し操作可能です。

イマーシブモードの開発は、ゲームやVRアプリケーション開発で必要とされる3DCG機能を充実させています。しかし、私たちはSunnyTuneが日常生活の一部として自然に存在し続けるような体験を目指しています。この理想を実現するために「ウィンドウモード」での開発を選びましたが、3D表現の統合に際して様々な問題に遭遇しました。

Apple Vision Proの開発ツールは、2Dインターフェイスに焦点を当てたAppleのデザイン哲学を映し出しています。ウィンドウモードでSunnyTuneを含む複数アプリを同時に動かす際、3DCGのライト配置などの機能が欠けていることが判明しました。これは、Appleが空間コンピューティングにおいて実際の生活空間を大切にし、偽のデジタル光ではなく実空間の光を活用することを推奨していることを示唆しています。
 
――予想と異なるインターフェイスであることを発見した際に、SunnyTune自体の方向性を変える選択肢はありませんでしたか?

小林:なかったですね。先述の三つの変化の三つ目にあった通り、「立体的な情報」が扱えるようになることで、奥行きのあるコンテンツが重要になると考えてスタートした企画でした。なのでそこはぶれることはありませんでした。Apple Vision Proが浸透した後、2D的なアプリはたくさん登場すると見込んでいて、そこで僕らが3Dにチャレンジすることは、他アプリケーションとの差別化のする意味もあると思いました。
 
――今後、Vision Pro自体も進化していくことで、いずれ3Dの表現に最適化していくという予想もされていますか?

小林:そうですね。SunnyTuneを開発する過程で、Apple Japanの方とも何度も議論させてもらいました。まだまだAppleの中でもApple Vision Proの技術的な仕様を模索しているようで、現状の仕様に対するQ&Aだけではなく、僕たちのような開発者からのフィードバックはどんどん聞き入れて本国に共有してくださっていました。開発者が出すアプリが今後Apple Vision Proの仕様自体に影響を与える可能性も充分にあると考えています。
 
遠藤:そういった共創の利害関係でいられることが、すごく貴重な機会だと思っています。だからこそAppleに気に入られるためにルールから逸脱しないように開発するのではなく、僕らが考えるビジョンを正面からぶつけていきたい。
 
小林:Apple Vision Proでの開発の難しさであり、特徴である点をもう一つ挙げるなら、「ユーザーが答えをもっていない」ということですね。スマホの一般的なアプリケーション開発であれば、ある程度お作法が決まっていて、ユーザーにどういうニーズがあるのかを聞いて作っていくのが当たり前になっていますよね。

ただ、空間コンピュータにおけるアプリケーションの正解は誰にもわかりません。なので、僕らの信念を基に作ったアプリケーションをとりあえず出してみて、ユーザーからの反応を受けてアップデートしていくのが近道だと。SunnyTuneも、人々の生活に溶け込む実用的なアプリケーションを目指して開発しましたが、ユーザーが全く予想外の反応をくれて、大きく方向転換するかもしれません。
 
遠藤:「天気はどうてもいいけど、何か落ち着くんです」みたいな反応もきっとあり得ますよね(笑)
 
――ユーザーのフィードバック次第で多様な可能性が考えられると思いますが、現時点でのSunnyTuneの今後の展開を教えてください。

小林:天気は現実世界とリンクしていますが、それ以外はユーザーが自由にカスタマイズできるように、機能を追加していく予定です。例えば、より天気情報を体感させるようなキャラクターアセットを配置できるように考えています。SunnyTuneの空間の中でキャラクターが動いていて、気温が下がったときはキャラクターが寒がったり、雨が降ってきたら雨宿りをしたりするキャラクターの変化を見て楽しむことができます。

今後はいろいろなキャラクターIPとのコラボや、インテリア、ファッションといったブランドとのコラボも構想しており、空間のカスタマイズ性を拡大していきます。

MESONが捉えるApple Vision Pro

――お二人は、Apple Vision Proの可能性をどのように捉えていますか。また、私たちの生活にどんな影響をもたらすでしょうか。

小林:先述した、iPhoneと同じように日常生活で使われるデバイスで、3つの変化をもたらすということ以外にも、大きな特徴があると考えています。

要は、僕らの意思とデジタル情報の距離が非常に近くなっていくと思います。僕はApple Vision Proを「プレ・ブレイン・マシン・インターフェース(Pre-BMI)」と表現していて、脳と機械が直接つながるようなブレイン・マシン・インターフェースの一歩手前だと思っています。

パソコンではマウスを通じて自分の意思を通していたのが、スマートフォンでは、ダイレクトにデジタル情報に触れられるという変化がありました。脳で思っていることをコンピュータに伝えるまでのパスがどんどん短くなっているんですね。そうすると究極的には、脳とパソコンが同期している状態(ブレインマシン)になるわけですが、その一歩手前として、かなり意志とコンピュータの距離が近くなっているのが空間コンピュータです。

空間コンピュータの時代は、僕らが指で触ることさえせず、脳に一番近い「目」の感覚を使って操作できるようになります。何かを思ったり感じたりした瞬間に、すぐに操作できるような状態が、空間コンピュータによって生まれると考えています。
 
遠藤:そもそもAppleは、Apple Vision Proを使用している人とそうでない人を、分断しない設計にしているんですね。例えば、ゴーグルの表に使用者の目が表示されるので、その場に居る人同士が互いに話しかけても応答できる。徹底して、生活空間における人の関係を分断させない。僕らがデジタル情報に接する時に、生活や社会、世界と乖離しないようになっているわけです。なので僕らもSunnyTuneでリアルタイムの天気のデータを取り込んで、ユーザーの生活とデジタル情報の体験が地続きになるように、意識しています。

また、現代人が自覚的になるべきなのが、今僕らがデジタル情報に触れるときには動機のコストを求められているという事実です。「天気を知りたい」「メールを送りたい」といったモチベーションがあってはじめて、デジタル情報にアクセスします。その後もボタンを押したり作業をしたりといったコストがかかります。

Apple Vision Proのような空間コンピュータにおいては、その動機のコストがゼロになる。インテリアのように当たり前のようにそこに情報があって、目を向ければ何となくわかる。これが、空間コンピューティングの世界の人間と情報のお付き合いの仕方だと思います。
 
――これまでのデバイスとは全く異なる体験をもたらすことになりますね。今後、Apple Vision Proの普及はどのように進むと考えていますか?

小林:僕は二段階で普及すると予測しています。最初の段階では「パソコンの代替」になると思います。空間コンピュータはスマートフォンの次のデバイスだと言われることが多いのですが、いきなりそのフェーズにはいかない。

というのも、Apple Vision Proは外部のカメラから捉えた映像をディスプレイに映し出すタイプのヘッドマウントディスプレイで、装着すると視界がすべてディスプレイで覆われますよね。例えば、階段を降りる時や横断歩道をわたっているときに電池が切れて、目の前が真っ暗になったら危険です。なのでメーカーも屋外で使うことは推奨していません。

そうすると、最初は自宅や職場といった屋内での使用がメインになり、デスクワークやテレビや映画を見るときに使うスタイルが普及するでしょう。

ただ2~3年後、屋外で使っても安全な、いわゆる眼鏡型のデバイスでの高度な空間コンピューティングができるようになれば、スマートフォンの代替となって普及すると思います。今の段階では視野角の問題で、眼鏡型のデバイスで高度な空間コンピューティングを実現することが難しいのですが、技術のブレイクスルーが起きた後に可能になるでしょう。
 
遠藤:僕は、Apple Vision Proのようなデバイスや、それにまつわるプロダクトを開発することによって社会や世界を変えることができるかもしれないという予感があります。これまでは、マーケットで売れるもの、つまり人間が求めるものに合わせてプロダクトが展開されてきました。でも、そろそろ人間が持つニーズにも疑いをもたなければいけない時期に差し掛かっていると思うんです。人間のニーズにはない、よりよい未来を提案をしないと状況は変わらない。このApple Vision Proにはそれができる可能性があると感じます。
 
小林:僕らが見ている世界観に、人々のニーズを寄せていくということですよね。それはMESONのパーパス「まなざしを拡げる」にも合っています。僕らは、空間コンピューティングによって人々の世界に対する捉え方をもっと拡げたい。それが社会におけるMESONの存在理由だと考えています。ニーズに即すだけでは、人々がすでに見えている視野を満たすことしかできませんが、まなざしを拡げることで「こんなにいい世界があるよ」という新しい視野を届けられるのです。
 
――MESONとして、今後はApple Vision Proをどのように活用していきますか。

小林:今後は、Apple Vision Proが大きな注力テーマの一つになります。これまでのMESONの取り組みはPoCが多かったのですが、これからは世の中の人に使ってもらえるアプリケーションを作っていくという事業にシフトしていきます。日本発のApple Vision Proアプリケーションを提供する企業を目指して、引き続きApple Vision Proを研究し、実際にアプリを開発しながら知見を貯めていきたいと考えています。

■SunnyTune-----------------------------------

Apple社の空間コンピュータ「Apple Vision Pro」向けの自社プロダクト、天気体感アプリ「SunnyTune」をリリースしました。アプリはアメリカ合衆国のApp Storeよりダウンロード可能です。
「SunnyTune」を利用すると、目の前に小さな空間が現れます。この空間の天気は現実世界の天気と連動しており、ユーザーの現在地の天気と同じように変化します。雨が降り始めると雨粒の光景を楽しんだり、風に揺れる植物の音をこの空間を通じて聞く。というように、天気を質量のある情報として表現し、目と耳で天候の変化を感じることができます。
また、「SunnyTune」は他のアプリとの併用できるように設計しており、ブラウザアプリで調べ物をしながら雨音を楽しんだり、作業の合間にふと気になったタイミングで天気を体験するといった使い方ができます。

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